近年、スマートフォンやパソコンにおけるAI機能の進化は目覚ましく、Apple製品において、その裏側を支えているのが「Neural Engine(ニューラルエンジン)」という専用チップです。
あまり馴染みのない言葉ですが、実は、皆さんが毎日使っているiPhoneの顔認証や音声アシスタント、写真の自動補正など、日常で自然に使っている機能の多くは、このNeural Engineによって実現されています。
しかし、「Neural Engineとは何か?」「CPUやGPUとどう違うのか?」といった疑問を持つ人も少なくありません。
本記事では、そんなApple製品に搭載されているNeural Engineの役割や仕組み、活用されている具体例などをわかりやすく解説していきます。
Neural Engineは機械学習の処理を行う

CPUは演算や制御の処理、GPUは映像出力の処理を担当しますが、一方でNeural Engineは機械学習の処理を担当します。
AppleのNeural Engineは、機械学習タスクの実行に特化した専用ハードウェアで、その主な役割は、機械学習モデルの推論を高速かつ効率的に実行することで、高度なAI機能を様々なアプリケーションで実現することです。
CPUやGPUでも、機械学習タスクを行えますが電力効率が悪いため、専用のチップ「Neural Engine」にタスクを任せることで、バッテリー駆動時間を伸ばしています。
電力が限られているモバイル端末に最適なチップというわけです。主に写真撮影や画像音声処理、3Dグラフィックで活躍します。
iPhoneユーザーが普段から使う顔認証やSiriにも使用されているようです。CPU、GPUに比べると少し特殊なチップですが、AppleがARや画像認識を推進していることや、近年半導体各社が似たようなチップを開発していることを考えると、重要なチップと言えますね。

Windowsに搭載されているインテルやAMD、クアルコムにも同じようなチップ通称「NPU」が搭載されているよ。


Neural Engineが初めて搭載されたのは「iPhone 8」


Neural Enginが初めて導入されたのは、iPhone 8/8 Plusに搭載されたA11 Bionicチップです。当初は毎秒600億回の演算処理が可能でしたが、その後、世代を重ねるごとに性能が飛躍的に向上しています。
最新のNeural Engineでは、毎秒数兆回の演算処理が可能になり、より複雑な機械学習モデルの実行に対応するため、メモリ帯域幅や演算ユニットの数も増加しています。
現行モデルに搭載されているM4シリーズのNeural Enginは、前世代よりも最大2倍高速になりました。
Appleによると、この史上最速のNeural Enginを組み合わせることで、Mチップ全体がプロとAIのワークロードのために驚くようなパフォーマンスを発揮するそうです。
ここまで聞くと、Neural Engineって意外と重要なパーツなのかな?って気がしますね。それに、iPhone 8/8 Plusが発売されたのは2017年のことですから、だいぶ昔からApple製品をAIに対応させようとしていたのが伺えますね。
IntelやAMDにNPUが搭載されるようになったのは、つい最近のことですから、Appleの先見の明は凄まじいです!
Neural Engineが活用される具体的な機能


Neural Engineは、Face IDの顔認証、Apple Payでの不正検出、キーボードの予測変換など、私たちの日常生活で様々な形で活用されています。
写真とビデオの処理:
- iPhoneのカメラアプリでは、Neural Engineがリアルタイムでシーン分析を行い、最適な撮影設定を自動的に適用します。ポートレートモードでの背景ぼかしや、ナイトモードでの低照度環境下でのノイズ低減なども、Neural Engineの高速処理によって実現されています。
- 写真アプリでは、顔認識や物体認識を行い、写真の整理や検索を効率化します。例えば、「犬」や「海」といったキーワードで写真を検索したり、特定の人物が写っている写真をまとめて表示したりすることができます。
音声認識と自然言語処理:
- Siriでは、Neural Engineが音声認識や自然言語処理を行い、ユーザーの質問や指示をより正確に理解します。これにより、より自然な会話体験が可能になります。
- 音声の文字起こし機能も、Neural Engineによって高速化されています。会議や講義の録音をテキスト化したり、音声メモを文字に変換したりする際に、その恩恵を実感できます。
拡張現実(AR):
- ARアプリでは、Neural Engineがリアルタイムで環境認識や物体追跡を行い、仮想オブジェクトを現実世界に自然に重ね合わせます。これにより、没入感の高いAR体験が可能になります。
- ARKitと組み合わせることで、現実空間の把握、照明や物体の検出、人体の動きの認識などを実行し、より高度なAR体験を提供します。
その他:
- Face IDの顔認証、Apple Payでの不正検出、キーボードの予測変換など、多岐にわたる機能でNeural Engineが活用されています。
Neural Engineの技術的特徴


Neural Engineは、従来のCPUやGPUとは異なり、機械学習タスクの実行に特化したアーキテクチャを採用しています。これにより、より高い性能と電力効率を実現し、バッテリー駆動時間の延長にも貢献しています。
- 専用の演算ユニット:
- Neural Engineは、行列演算や畳み込み演算など、機械学習で頻繁に使用される演算を高速に実行するための専用の演算ユニットを備えています。
- 最適化されたメモリ:
- Neural Engineは、機械学習モデルのデータを効率的に処理するために、最適化されたメモリシステムを備えています。
- Core MLとの連携:
- Neural Engineは、AppleのソフトウェアフレームワークであるCore MLと密接に連携しています。Core MLは、開発者が機械学習モデルをAppleデバイスに統合するためのフレームワークであり、Neural Engineを活用することで、機械学習モデルの実行を高速化できます。
- プライバシーへの配慮:
- Neural Engineは、デバイス上でローカルに機械学習処理を実行するため、ユーザーのデータが外部に送信されることはありません。Appleは、プライバシーを重視したAIの実現に取り組んでいます。
ほとんどのNeural Engineは16コアで統一されている


CPUやGPUと同じように、Neural Engineに対しても、数個のコアを装備して性能を確保しています。ただし、ユーザーオプションでコア数を変更できるわけではなく、最初から数は決まっています。
その数は、チップの種類によって違いますが、現行チップ(iPhoneならA18とA18 Pro、MacならM4チップ)では、ほぼ全て16コアで統一されています。
唯一、Mac Studioに搭載されているM3 Ultraのみが2倍の32コアとなっていますが、プロ向け仕様の本機を購入する人はごくわずかでしょう。
そのため、特にMacを買う際は、Neural Engineのコア数について気にする必要はありません。


まとめ:Neural Engineの将来展望
Apple製品に搭載されているNeural Engineは、機械学習とAIのタスクを高速化するために設計された専用のハードウェアです。その将来展望は、AppleのAI戦略と密接に結びついており、AIが急速に進化している今、以下の点が考えられます。
具体的には、より複雑な機械学習モデルの実行や、リアルタイム処理能力の向上。それに加えて、Apple製品におけるAI機能の進化を支え、例えば、写真やビデオの高度な編集、より自然な音声認識や言語処理、拡張現実(AR)体験の向上などです。
さらに、Neural Engineは、セキュリティとプライバシーを重視したオンデバイスAI処理を可能にします。これにより、ユーザーのデータはデバイス内で安全に処理され、クラウドへの送信を最小限に抑えることが可能です。
Neural Engineの進化は、これからのユーザーに革新的な体験をもたらすはず!今後の進化に期待しましょう!